Comptiq: “Shin Megami Tensei ~Character Profiles~”

Comptiq (ed.) Shin Megami Tensei ~Character Profiles~ (STEVEN REPORT). Tokyo: Kadokawa Shoten, 2001.

Source: http://xn--ehqs60c2gs6ptzjh.jp/shin_megaten1/mcd_text031.html


PS版真・女神転生インタビュー

2010年7月14日、プレイステーションネットワークにて、真・女神転生がPSアーカイブスとして配信された。それを記念し、真・女神転生がプレイステーションに移植されたさいに発売された攻略本『真・女神転生~キャラクタープロファイル~』に収録された岡田耕始氏と金子一馬氏のインタビューを掲載する。


――今回まさに満を持して『真・女神転生』シリーズのPS移植となりましたが、移植に関してのいきさつなどを……。

岡田:ま、満を持してかどうかはおいてですね、自分たちとしてはひとつの作品が終わると、新しい作品を目指していくという姿勢でやってきました。今までのものを一旦リセットしてから、次のものを考えるというスタンスでずっときたものですから、世間の前の作品を新ハードで……という期待の声も聞こえてはいたんですが、過去のものをどうにかするという話はあまり出なかったんですよ。また、音楽とか映画とかは昔の作品が、媒体が変わっても出しやすいですが、ゲームはプラットフォームが変わるとなかなか難しいということもありまして……。でも、最近の作品(ペルソナやソウルハッカーズ等)からファンになった人たちに昔の作品にも触れてもらいたいということもあって、今回移植を考えたのと、あと『真・女神転生』シリーズの新作も製作がスタートしているということもあって、最新作に備えて昔の作品を体験してもらおうという、ちょっとした戦略ですね。

――なるほど。では先駆けとなる『真1』が発売されるわけですが、プラットフォームの変更に伴なう移植で、苦労した点は?

岡田:まあ最大議論になったのが、どこまで原作(SFC版)をPSに残していくかということで、完全ブランニュー派と完全移植派に開発陣が分かれてたよね。

金子:そうですね。

――で、完全移植派が勝ったわけですね。

岡田:ま、完全移植に近い、という形で落ち着いたことになりますね。当時は技術的に3Dダンジョンと言いながら、擬似3Dでごまかしてた部分なんかはポリゴン処理に変えてあったりしますけどね。逆に、新たに入ってきてくれたファンに原作を伝えるのに、あまり変えてしまうのは……ということもありまして。かといってあまりにそのまま……というのもどうかということで、直せる部分は直そうと。で、どこに終着を求めるかで、半年ぐらいは色々と試行錯誤を繰り返しましたね。

金子:まあ時間があればリメイクって話もありましたが、何度も何度も戻るよりは、新しい作品に進みたいということもあって、双方納得がいくところに、最終的に落ち着いたってところですかね。まあ、余力ができればというところなんですが、それはまあ、この本を読んでいる君が……一緒に作ろうということで。勉強して数年後に来てくれと。アトラスで待ってるゼ!みたいなね。

――では次に、この『真1』のシナリオの中で、これは!というものがあれば……。

岡田:『真1』に限らず、シナリオには非常に時間がかかって、何度も修正修正で。特に『真1』は骨格となる部分のLAW-CHAOSの概念なんかでは散々モメましたね。ヘタしたら岡田の女神転生と金子の女神転生は違うわけで……シナリオとかでも、特に『真1』はスタッフに任せた部分もあって、リテイクというよりは作り直したところも多かったですね。

金子:最初はなんか、世界を巡ろうくらいまでいってたりとか。

岡田:そうそう。東京が出発点だったとしても、日本全国だけでなくヘタすりゃ世界だ!とか言っちゃって。

金子:最後はイスラエルだ!なんて話もありましたしね。日本の全国地図描くんかい、とかね。昔話をしちゃうと。

――ちなみにスタート地点が吉祥寺なのはなぜなんでしょうか?

金子:当時僕が吉祥寺に住んでいたこともあって……変な話、子供のときって、「ここに人住んでいるのかな」なんて思ったりすることあるじゃないですか。絶対オバケがいてみたいな。そういう対象としてエコービルがあったんですよ。なんであんな一等地なのに、誰もいないんだろうって。で、それ面白いな~って話をしていたら、誰がどう決めたってわけでもなく、吉祥寺がスタート地点に。

岡田:それでもまあ、東京をメインにしようって話が最初にあって、いきなり中心地から始まるんじゃなくて、ちょっと離れたところから始めようってことで。要は、普通の少年が巻き込まれていくって演出がしたかったので……。

金子:まあ、色々揃ってミニ東京みたいな感じで、魅力的な街ではあるんで、スタッフも、まあいいんじゃない?と。でも、エコービルはもなくなっちゃいましたからね。キレイになってしまったんで、何と言っていいやらと……。

――そういった意味では、当時の風景をゲームとしていつまでも残せると?

金子:まあ、そうですね。

――エピソードとして印象に残っているシーンはどこでしょう?

岡田:自分としてはやっぱりアマノサクガミに母親が殺されるシーンですね。元々はもっと残酷な描写にしていたんですが、これはまずいだろうって、テストプレイとかしてたら、スタッフがみんな気持ちがどんよりしてきちゃって。僕と金子は全然そんなこと思ってなくって。「これはないんじゃないですか?」とか言われて、今の形に自己規制しましたけどね。あれなんかが、原点っていうか、善と悪で割り切れない部分を、あなたならどうしますかっていう最初のLAW-CHAOS的な問いかけになってますけど。

金子:色んなこと考えられますよね。そこから。何かはあえて言わないけどね。

岡田:LAW-CHAOS的ってことで言うと、当時のユーザーの方の反応で、「どうしてもLAWになっちゃうんですけどどうしたらいいですか?」って質問が多くてですね、「それはあなたがLAWなんですよ」って答えても、「いや、でもCHAOSルートもやりたくて……でも、自分で選択するとLAWになっちゃう」って聞かれましたが、「いや全部やっていただかなくても、なすがままの結果でいいんじゃないですか」って、当時は言ってましたけどね。

金子:まあ、色々ありましたね。当時は若かったもんで、テンションも高くて、どのエピソードも心に残ってますね。遊び要素が多くてやることがいっぱいあって具沢山ですよね、この作品も。当時はそれこそ『ドラクエ』があって、対抗意識はありましたから、向こうと違うことをやらなきゃっていうのがありましたね。向こうはどうしてもベビーフェイスなんで、こっちは毒霧まくしかないかなって気でやってましたね。

――ユーザーによく考えて体験してもらいたいところはどこでしょう?

岡田:それこそ全部って話なんですが。

金子:映画でも漫画でも、年をとって改めて見ると、昔と違うところで感銘を受けることってあると思うんですけど、この作品でもそういうところはあると思うんで、今の自分っていうのを感じてもらえるといいですね。

岡田:言葉的には問題定義って言ってますけど、かといってそれを前面に押し出しているわけではなくて、ゲームとして楽しんでいただければいいと思っています。別に賞とか狙っているわけではないんで。

金子:いや、もらえるなら賞は欲しいです。まずないでしょうけどね。

――リファインしたキャラクターについてはどうでしょう?

金子:まあ、今と昔では驚くほど流行が違うんで、ビックリしちゃいますよね。当時の流行を取り入れていたわけではないんですけど、どうしたってテイストは似ちゃいますけど。まあ、なるべく印象を変えないように、スッキリさせたのが今回起こしたキャラクターイラストです。で、主人公ですが、当時のゲームとか漫画って、髪型にこだわってなくて、ザンバラなものばかりだったんですけど、ま、天然パーマもいるだろうってことで主人公をクルクルの頭にしてました。で、当時できる限り自分の身の回りで武装しました、ってカッコをさせてたんですけど、それじゃあんまりだろうということで今回ちょっと小奇麗にしてみました。

――当時は世紀末っぽいゴツい服装が流行してましたしね。

金子:それは当時の僕の技量的にも荒っぽかったっていうのもあると思うんですけど、どうしても当時って映画や漫画などで、世紀末でムキムキちゃんたちをやっつけるって作品が多かったんで、その影響ですかね。まあ、今はパソコンで絵を描いたり、シルエットの取り方とかも変わってきているんで、洗練された感じにはなってきてますけどね。

岡田:まあ、金子の方で当時の流行を敏感に察知して描いてはいたんだけど、今見ちゃうと「えー、真ん中分け?」ということになっちゃうんで、今だったらってことで描き起こしてもらったんですよね。

――それでは最後に、この本を読んでいるユーザーにメッセージをお願いします。

岡田:すべてをリアルに表現するのではなく、2割くらいは「あなたならどうする?」という問題定義を、今後も作品に入れていきたいと思っています。今回の移植版については、旧作をプレイしている方には、今だから感じる部分を楽しんでもらいたいです。新しく入った方には、難易度を低くしたモードで、ストーリーを楽しんでもらえると思うので、女神転生シリーズの本質みたいな部分を味わっていただいて、こちらが目論んでいる新作に備えてもらいたいですね(笑)。

金子:ファンタジーものが多い中では鬼子的な作品ですので、プレイしてもらってファンになってもらえればと思います。