Dengeki Interview: “SMT III-Nocturne”

Shimamura, Yusuke. “Shin Megami Tensei III-Nocturne“. Dengeki Online, ASCII Media Works, 20 February 2003. [Japanese]


(株)アトラス『真・女神転生』シリーズ 総合プロデューサー東京都出身。1986年、6人のスタッフとともにアトラスを設立。『真・女神転生』シリーズの歴代作品すべてに関わる。

(株)アトラス『真・女神転生』シリーズ 総合プロデューサー
東京都出身。1986年、6人のスタッフとともにアトラスを設立。『真・女神転生』シリーズの歴代作品すべてに関わる。

――:今作は『真・女神転生II』以来、実に9年ぶりに『III』とナンバリングされていますね。また、『I』や『II』にはなかったサブタイトルが付いていますが、どのようなメッセージが込められているのでしょうか?
岡田耕始氏(以下敬称略):まず、今作は『真・女神転生』――我々の間では”本編”と呼んでいますが――の正統後継だ、ということを前面に押し出したかった、という想いがあります。とはいえ、『III』は単なる続編ではなく、今までとは違うまったく新しい『真・女神転生』なワケでして。ですから、あえて初めてサブタイトルを付けたのは、「ここから新たな『真・女神転生』が始まる」、という序章的な意味合いも含めたかったからなんです。
――:ということは、今後の『真・女神転生』シリーズには、サブタイトルが冠される、ということになる、と? たとえば「~レクイエム」とか。
金子一馬氏(以下敬称略):まあ「レクイエム」っていうのは、ちょっとありがちかな。今回の「ノクターン(夜想曲)」って、ちょっとエッチっぽいでしょ(笑)。
――:前作から9年間沈黙していたわけですから、割とゆったりしたスケジュールで開発できたのでしょうか?
岡田:ゲームの実際の開発は、ここ1年くらいの間に一気にやったので、スケジュール的にはけっこうタイトでしたね。9年の沈黙とはいっても、何もしていなかったわけではありませんし。他の作品を作りながら、その間にアイデアを仕込みつつ。
――:他のタイトルと言いますと、シリーズの派生として『ペルソナ』シリーズや『デビルサマナー』シリーズなどのことですよね。今ここに来て、正統後継作を出す理由とは?

(株)アトラス『真・女神転生』シリーズ クリエイティブディレクター東京都出身。『真・女神転生』シリーズのキャラクターデザイン、アートディレクションを担当。

(株)アトラス『真・女神転生』シリーズ クリエイティブディレクター
東京都出身。『真・女神転生』シリーズのキャラクターデザイン、アートディレクションを担当。

岡田:ずっと構想していたものが形になったから、です。『if...』をはじめとした派生した作品はどれも、本編に比べてミクロなテーマを扱っていたワケですが、今回のテーマは「混沌からの創造」。実は9年前から、いつか「カオス」をテーマにやろうって、金子と二人で話してはいたんですけどね。
――:プレイすると、すぐにその重厚なテーマが伝わってきます。「これは確かに『真・女神転生』だ」っていう実感がありますもんね。
岡田:ありますよね、パッと見はちょっと違うかな? って思うかも知れないですけど、実際にプレイしてみると、この手に伝わってくる感触が、まさにそうだねって感じる。
――:世界観はまさに『真・女神転生』なんだけど、システムに関していうと、武器や防具などの装備類が一切なくなったのは、潔いし新しいな、と感じました。
岡田:シリーズを重ねると、どうしても複雑になりがちじゃないですか。それがイヤだったんですよね。悪魔合体にしても「じゃあ次は4身合体やるか」っていうモノじゃないだろって。ですから『III』は、原点に帰る、と言ったら大袈裟かもしれませんが、できるだけシステムをシンプルにして『真・女神転生』の世界観を極めていこうと。とにかくシェイプアップして、シンプルにして、でもなおかつ奥の深い味わいのあるものにしていこうと思って。
――:世界観といえば、やはり金子さんのデザインなしでは語れないところだと思います。今回、フル3Dで制作されていますが、見事に金子さんのデザインが再現されていますね。
岡田:PS2で『真・女神転生』を出すのは初めてなので、世の中の流行に合わせてリアル志向にしようか、という考えもありましたけどね。でもやっぱりこのシリーズの世界観は、決してリアルではなくオリジナルなモノなので、ビジュアル表現も今までにないものを目指しました。
金子:ですから、たとえば『III』の導入部は日常の東京ですけれど、それを描くときに現地に行ってデジカメで撮って、そのまんま再現する、っていうやり方ではダメなんです。あくまでもゲームとしての世界を表現するわけだから、それをもとに、アレンジして独特な世界を作っていかないと。ホント、リアルなものを作った方がラクだったかもしれませんね。――:アレンジという部分で、具体的に採用した手法とは?
金子:我々の間では「ボルテクスシャドウ」と呼んでいる”影”を付けました。これは、画面に緊張感を持たせるための、現実にはあり得ない影です。光の長さや方向をひとつひとつの画面構成において、全部作っていったんですよ。この表現は、まさにスタッフの技術と努力の結晶ですね。
――:光と影の独特なコントラストが、とても印象的ですよね。主人公が悪魔になるシーンは、いつ見てもゾクゾクしますよ。
金子:ちなみに悪魔になった主人公のデザインは、シャーマン(霊と直接的に交わる能力をもって治療・予言・悪魔払いなどをする人。日本では「みこ」「いたこ」「ゆた」などがその例)をイメージして全身にタトゥーのようなモノを施したんです。悪魔や神様って、元をたどれば自然のメタファーなんですよね。人格化を持たせたものなんですよ。そう考えたとき、悪魔=自然を操るというのはひとつ超えた存在、なにかしら異界との接点を持つ一種のシャーマンなんだろう、と。
――:ちなみに主人公の後頭部に付いている突起物には、何かしらの意味が?
金子:あれは脳の器官の一部で、それがマガタマによって覚醒する、という設定。デザイン上で言えば、小さなポイントとして必要かな、と。今回のキャラクターデザインは、全体的に色っぽい、というか艶っぽくしたかったんですよ。
岡田:ここだけ見ると、髪型の一部みたくなっているんですけど、色が違うんですよ。黒じゃないの。こだわってるんです。予約特典のフィギュアに関しても、製造している中国まで行って指示してきましたから。
――:またまた主人公について。『真・女神転生』って、多くの人間が携帯電子機器(携帯電話)を持つ未来を、いち早く予見していたゲームなのでは、とも言えた作品でした。ところが今回の主人公はハンドヘルドコンピューター的な電子機器を持っていない。これは何故ですか?
岡田:本当は持たせたかったんですよ、今まであれを持つことによって、ゲームのデザイン、画面構成などもそこに集約していたんですね。ところが今回の主人公はネイティブな存在として悪魔になっていっちゃって、電子機器を持つ意味がなくなっちゃうんですよ。
金子:今回、ハンドヘルドコンピューターのような電子機器を介さずとも悪魔を操れる、ということは、まさにシャーマンですもんね。だから主人公から電子機器などを排除していく分には、違和感がなかったというか。
――:電子機器のネタは入っています?
金子:今、携帯電話を持っていないと不安になってします人が一杯いるじゃないですか。そういう人たちをモチーフにした、マネカタというキャラクターが登場します。シナリオには、「電子機器がもたらす弊害」というメタファーを入れていますよ。
岡田:ちなみにボクの出身の浅草は、ゲーム中ではマネカタの聖地になっています。
――:そういえば、お二人とも東京、それも下町のご出身ですよね。実際の東京の街とリンクしているネタってあるんですか?
岡田:今までの『真・女神転生』で、六本木や渋谷などのメジャーな地域を出しちゃったから、違う土地を入れたいっていう考えがあったので、いくつか入っています。ちょっと調べてもらえば、意外な絡みに気が付くかもしれませんよ。
――:今回は、登場人物が少ない印象を受けましたが?
岡田:それぞれの個性を際立たせるためにも、登場人物を絞りましたね。
――:その中での、特にお気に入りは?
金子:みんな好きだけど、祐子の女性的でありつつ残虐さも持っている二面性っぽいトコロはけっこうコワイかも。
岡田:それはそういう設定なんだからしようがない(笑)。現実はそんなに愛想のいい女の子ばっかりじゃないよってね。
金子:僕らのゲームには、アイドル然としたキャラクターはいませんしね。女性プレイヤーにも共感してもらえるキャラクターだと思います。
――:今回のゲームオーバーの演出にはびっくりしました。いきなり天使が螺旋を描いていましたからね。
岡田:今回もゲームオーバーにはこだわりましたね。三途の川、お花畑と来て、今回はダンテの神曲。
金子:実際に臨死体験をした人に話を聞くと、必ずトンネル表現が出てくるんですよね。そして最後、光の玉に向かって行くていう…。
――:宝箱もユニークですね。あんな宝箱ありえないじゃないですか。
金子:最初は、しっかりと作るわけですよ。ダンボールみたいなやつとか、イロイロと現実にあるようなやつを。でもそうすると、どれが宝箱なのかわからなくなっちゃいますからね。だったら世界観を作っちゃえばいいんだって。今回のイメージは幾何学的ってイメージなんで、とにかく幾何学だと、自然界の法則があると思うんですよ、黄金比率的なものが。そういうのをとにかく入れ込んでいこうと。気持ち悪いカオスな世界観っていう考えもあったんですけど。
――:その法則性は、マップのデザインにも感じました。分かれ道があって、さも順路はこっちですよという感じになってるんだけど、逆の方には必ず宝箱があったり、とか。
金子:それは当たり前でございます(笑)。本当にあるのか? って思うくらい宝箱までの道のりが長かったり、ときどきはホントに何もなかったり。
岡田:そこはやっぱり大事ですよ。ゲームの中だとクリエイターは神様で、神様はサービスなんてしませんので、うちは。いじめてナンボなんで(笑)。
金子:ボクらとしては、神様をギャフンと言わせて欲しいわけですよ。神様の言うとおりに進んだらつまんないじゃないですか。
岡田:ゲーム自体をそういうものだと捕らえているんですよね。インタラクティブでユーザーと競争できる唯一のメディアだと。どんどんビジュアルや音は進化していくんですけど、それをやりたかったら、映画なり他のものを作ればいい。じゃあ、なんでゲームを作るのかといえば、プレイヤーとの駆け引きをどうやっていくか、どう能動的・積極的にやってもらうか、を考えるところが、ゲームとしての面白さだと思うからです。
――:今回一番大事にしたことを教えてください。
岡田:プレイヤーは主人公として、共感するなり、反発するなり、いろいろなことを感じてほしい。これは、シリーズを通して大事にしている想いです。『III』は、その想いをもちろん継承しつつも、先ほどにもあったように”新しくこれから始まる”という意味を込めたタイトルでもあります。ですから、シリーズのファンの方はもちろん、初めての方にも十分楽しんでもらえると思っています。他では味わえない世界を堪能していただきたいです。
金子:『III』は非常にいいまとまり方をしたと思っています。とはいえ、”これから始まる”という意味では、まだスタートしたばかり。ユーザーの皆さんには、今後も『真・女神転生』シリーズの成長を応援していただきたい、と思っています。